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tttabata による書評(和書) Copyright © 2001 by Tatsuo Tabata |
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このページの目次 著者名(次いで書名)のアイウエオ順 |
飯沼和正、菅野富夫 「高峰譲吉の生涯:アドレナリン発見の真実」朝日選書 今学びたい明治人の気概 高峰譲吉は1854年(嘉永7)富山県高岡の蘭方医の家に生まれ、金沢で育った。1879年、工部大学校(現東京大学工学部)を卒業(第一期生)し、翌年から英国留学。帰国後、農商務省に勤務。米国ニューオーリンズ万博に出張の際、現地でキャロラインと婚約。自ら創設した人造肥料会社を30歳台半ばで捨てて、米国に流出。今でいうベンチャービジネスを興し、イリノイ州の田舎町で胃腸薬「タカジアスターゼ」を開発。その後、ニューヨークに移住し、小さな実験室で若い助手、上中啓三の協力を得て、「アドレナリン」の抽出に成功。これは世界で最初に見出されたホルモン物質である。 (2001年1月21日) 加藤周一 「夕陽妄語VI」朝日新聞社 国政右傾化の道筋をつまびらかに 本書は朝日新聞夕刊に月1回掲載されている随筆の、1997年からの4年分をまとめたものである。評者は紙上でもほとんど欠かさずに読んでいるが、単行本になった折に必ず購入し、再読する。そのことは、国内外の政治や、文化・世相の近年の流れについて復習するよい機会を与えてくれるとともに、それらの流れの記録を保存することにも役立つ。 (2001年6月1日) 加藤周一 「読書術」岩波現代文庫 豊かな経験から出た読む方策のいろいろ 本書の初刊は1962年。ベストセラーとなり、1993年の岩波同時代ライブラリー版を経て、2000年に岩波現代文庫版が誕生した。初刊から40年近くが経過している。同時代ライブラリー版への「あとがき」で著者は、「そもそも『読書術』なるものが、30年やそこらで簡単に変るはずもない」と述べている。しかし、本書は読書術を論じているだけでなく、出版文化の優れた批評にもなっており、それがいまなお新鮮に感じられるのは、著者の分析力の透徹性を示すものであろう。 (2001年3月17日) 加藤周一 「私にとっての20世紀」岩波書店 新世紀への鋭い指針 著者は幼少期に熱のあったときに、巨大な車輪に圧しつぶされそうになる夢をよく見たということを、回想記「羊の歌」(岩波新書)の中に書いている。評者も子どもの頃、同様な夢を見たので、この著者にはとくに親近感を抱いていたが、本書の冒頭にも、この夢の話が、未知のものに対する予感という意味付けで出てくる。著者は、未知を既知に変えるためには、自分で実物に触れることが重要だと考え、その姿勢を自らの思想形成と著作において貫いてきた人であり、歴史、政治、文化等についての批評は、つねに鋭いものがある。 (2001年3月13日) 上岡義雄 「神になる科学者たち:21世紀科学文明の危機」日本経済新聞社 科学の「目的と価値」の転換を説く 欧米には、古代からの自然科学の流れをたどり、20世紀の科学の躍進について解説し、若干の将来の展望を記した著書は少なくないが、本書は、このような大きな課題に挑んだ数少ない和書の一つである。科学技術ジャーナリストの著者は、最近における非線形科学の台頭と、衝撃的な未来を予想させる人工生命・人工脳などの研究をまず紹介したあと、アリストテレスから近・現代にいたる科学の背景をなす思想について詳述する。 (2001年1月21日) |
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庄野潤三 「庭のつるばら」新潮社 晩年の暮しのひとつの理想像 温かい家庭生活を描いた小説に力を発揮してきた作者の、それらの小説の続編的作品である。しかし、これは小説というより随筆の形になっている。子供たちが結婚し、もう長く二人きりで暮らすようになっている夫婦の生活を自伝的に記述している。子供たち、孫たち、知人たち、近所の人たちとの心温まる交流と、夫婦の静かでのどかな暮しは、随所に記されている主人公(作者自身)の感謝の言葉が象徴しているように、いかにも満足なものである。 (2001年4月28日) 薄田泣菫 「茶話」岩波文庫 コラムの書き方の手本にもなるユーモア集 詩集「白羊宮」などで明治文学史上に名高い薄田泣菫は、大正時代、大阪毎日新聞社に在籍しながら、同新聞に逸話コラムを連載した。本書はそのコラムから選び集めたものである。無名の日本人から、マアク・トウェン、ヘンリー・フォウド、トオマス・エディソン、ダンテ、ダヴィット・ヒュウム、バルザック、ベンジャミン・フランクリン(表記は本書に従った)等々の世界史上の有名人までがぞくぞく登場し、その奇行等が語られる。 (2001年6月27日) 夏目漱石 「三四郎」岩波文庫 すがすがしい青春と現代に通じる社会批評 高校生時代に読んだのを、還暦も過ぎてから必要があって読み返した。明治も終りに近い1908年の作品であり、福岡の田舎に生まれ熊本の高等学校を卒業して東京の大学に入った青年、三四郎の恋は、現代からみれば、あまりにも淡泊と感じられなくもないが、その生き方のすがすがしさには、読者の年齢と時代を越えてひかれるものがある。 注:上のイメージは Amazon.co.jp の取扱い商品と異なっています。 (2001年4月24日) 村田喜代子 「名文を書かない文章講座」葦書房 「泥に手を汚して」書いた文章作法 芥川賞ほか多数の文学賞を受章した著者による文章の書き方の本である。著者は昔から文章作法について書かれた本を読むことに不快感があったが、自分でそういうものを書き始めて、その理由が、田圃の仕事を教えるのに手を泥に汚さない形で講義しているところにある、と気づいたという。この発見のためであろうか、本書は楽しく読めるようにできている。 (2001年5月3日) 吉村浩一・川辺千恵美 「逆さめがねが街をゆく:上下逆さの不思議生活」ナカニシヤ出版 愛らしいイラスト入りで不思議体験を如実に描写 知覚心理学分野で逆さめがねの研究を専門にしている大学の先生(吉村浩一)と、工学部意匠工学の修士論文を書くために逆さめがね生活を経験した学生(川辺千恵美)が、共同で著した本である。横書きの体裁で、川辺ほか二人の被験者の奇妙な体験の報告と吉村の解説が、各左ページに簡潔に述べられている。右ページには、その体験を巧みに表現した、川辺自身による愛らしいイラストが配されている。報告、解説、イラストの三者がきわめて効果的に絡み合っていて、読者自身逆さめがねを着用したかのように、不思議な逆転の世界を深く味わうことができる。 (2001年6月9日) |